「二人目の中学受験、苦手教科だけ受講するのはダメ?」ベテラン塾講師の回答は
話を聞いた人

邨田大輔

岡本校教室長、最難関校主管を経て、現在最難関校対策部門の統括責任者を務める。日能研関西入社以来、灘特訓、女子西大和洛南特訓、四天王寺医志西大和洛南特訓、星光西大和東大寺特訓を担当。最難関校受験生向けの教材作成、灘トライアル等のテスト作成に携わる。受験生を合格に導く戦術の持ち主で、クラス全員第一志望合格という快挙を成し遂げた。

きょうだいがいるご家庭では、中学受験を2回、3回と繰り返すケースが多いでしょう。二人目以降の中学受験では、経験を活かしてより効率的な受験を目指す保護者の方も少なくないようです。なかには、塾が推奨する講習や講座を避け、独自に苦手教科だけを受講するという声もあります。

二人目以降の中学受験について、日能研のベテラン算数講師である邨田先生に意見をうかがいました。

苦手教科の対策だけで学力アップは難しい

二人目の中学受験では、一人目の経験を活かしてコストパフォーマンスのよい受験を目指すご家庭があるようです。『夏期講習や冬期講習は受けない』『苦手教科だけ受講させたい』『日曜特訓や気になるオプション講座だけ受講する』などのケースがありますが、どのように思われますか。

邨田先生「保護者の方が本当に上手にチョイスできるのであれば、ご自身の選択でよいのかもしれません。しかし、上手くやり切れるケースは少ないような気がします。いわゆる、『策士策に溺れる』になるのではないでしょうか

親が独自で学習方針を立て、特定の講座だけを選んで学習するのは難しいのでしょうか。

邨田先生「足りない部分だけを補えばOKというほど、人間の脳が単純にできているとは思えません。例えば、食事を例に考えてみてください。一日3食の栄養バランスを完璧にととのえなくてもそれなりに健康でいられますが、食事をとらずにサプリメントを飲むだけの生活は健康を害します。栄養剤だけでは元気でいられないように、受験に必要なものとして組まれた講習を避けて独自の方針で学力を上げるのは難しいと思います

一部の成功例に目を向けるより、目に見えない失敗例が多くある現実を考える必要があるといいます。

邨田先生「成功例と失敗例を冷静に突き合わせてみたとき、どちらが多いでしょうか。また、失敗のリスクをどのように回避されますか。このような問いに基づいて考えてみると、答えが出るのではないでしょうか」

中学受験の勉強はトータルバランスを整えることが重要

効率的な中学受験を目指す場合、学校によっては複数の入試形態が設けられているため、苦手教科を避ける方法もあるかと思います。得意教科だけで受験する方針についてどのように考えられますか。

邨田先生「中学受験は算数で決まるとよくいわれますが、算数1教科型の入試が主流にはなりません。3教科・4教科などの受験が主流であるのは、子どもの教育においてトータルバランスを整えていくことが重要だからではないでしょうか

邨田先生によると、中学受験の狙いから考えて、極端な選択をとる受験はあまり推奨されないようです。

邨田先生「中学受験は、全方位に向けて視野を広く持ち、自己形成をしてきた子を評価していくシステムだと考えています。苦手をすべて取り除き、好きなものだけを取るようなチョイスでは、トータルバランスを整えていくことは難しいといえます。1教科受験が主流にならない理由は、そうした評価システムの影響ではないでしょうか」

独自の講座選択によって、学習バランスの乱れが懸念されるといいます。

邨田先生「基本的に、塾のカリキュラムはバランスよく学習できるように設計されています。オプション講座や季節講習の場合でも、苦手や得意に偏らないバランスのよい受講をおすすめします」

得意な教科でも放置すれば9月の段階で学力は落ちる

得意教科に手をつけずに苦手教科を重点的に取り組んだ場合、どのようになると考えられますか。

邨田先生「得意な教科であっても、放置すれば学力は落ちていきます。例えば、算数が得意だった大学生が、アルバイトで講師として算数を教えることになった場合、解き方をさっぱり覚えていない例は珍しくありません。人間の頭はその程度です。まして子どもですから、触れなければ忘れていきます」

夏の間に苦手教科に特化しようと考えている方は、注意が必要なようです。

邨田先生「夏期講習で苦手なことだけに取り組むと、9月の段階で他の学力は低下してしまうでしょう。得意教科であっても、授業を受けることに大きな意味があることをご理解いただきたいです

学力を維持するためには、季節講習やオプションだけでなく、日頃からの学習継続が不可欠だといいます。

得意教科が得意であり続けるのは、普段の授業を受け続けているからです。キープするためにも、日常的に触れ続けることを大切にしてください」

志望校で必要な受験教科はすべて受講したほうがいい

通常授業においても、偏った教科選択は望ましくないといいます。

邨田先生「受験を考えている学校で必要な教科は、すべて受講しておくのが望ましいでしょう。仮に理科だけの受講を検討している場合、算数・国語は自力でされるのでしょうか。リスクの高い選択だと思います。苦手の補強に注力したくなるかもしれませんが、得意を伸ばすことも大切です」

実際に、邨田先生が指導してきたなかで、偏った講座選択をしているご家庭に好例はなかったそうです。

二人目、三人目の受験となると、経験と知識を活かしてより効率的な方法を取り入れたくなるかもしれません。しかし、中学受験は一般的な勉強よりも高度な内容を学ぶ必要があり、時間も負担もかかるものです。受験のリスクを低く抑えるためにも、偏った選択は避けてバランスよく学習することをおすすめします。

日能研は、お子さまに効果的に学習してもらうことを目指して、綿密にカリキュラムを設計しています。お子さまやご家庭の状況に合わせて中学受験をしたい方は、ぜひ日能研にご相談ください。

 

聞き手・文:古賀令奈