夏期②夏期講習で急成長!ベテラン算数講師が驚いたケース① 〜簡単な目標設定で偏差値15アップ〜

受験生にとって大きな成長のチャンスといわれる夏期講習。うまく活用できると、著しく成長するお子様もいるようです。今回は、日能研のベテラン算数講師である邨田先生に、夏期講習で急成長を遂げたお子様のエピソードをうかがいました。

夏期講習の目標は簡単にできることでOK。やり切ることが大事

急成長を遂げたエピソードの前に、まず大切なポイントを。邨田先生は、夏期講習の効果を高める方法として、開始前に目標を立てることを推奨しています。

「目標といっても難しいものにする必要はありません。むしろ、簡単にできることにしたほうがよいでしょう。大切なのは、目標達成までやり切ることです。苦手単元の克服などハードルの高いものでなく、実現できる目標を立ててみてください」

簡単にできる目標として、どのような目標が例として挙げられるでしょうか。

邨田先生「ノートにちゃんと式を書く、図や計算の過程を書くなど、普段あまりできていないことを目標にするのがおすすめです。成績にかかわる目標ではなく、普段の行動目標のようなものを1つ持っておかれるとよいのではないでしょうか」

A君の目標は「読める字を書くこと」自分からチェックを依頼

邨田先生の教え子のなかで、実際に印象的だったケースについてお聞かせください。

邨田先生「昔、0と6の判別ができないほど乱雑な字を書くA君を受け持っていました。A君にとって改善すべき課題だと感じたので、『夏期講習の間は人にちゃんと読んでもらえる数字を書くことを目標にしてみたら?』と提案すると彼は快諾。しかも、『先生、読めなかったらノートにちゃんと書いておいて』とチェックを催促してきました」

邨田先生は、A君がチェックを求めてきたことに感銘を受けたといいます。

「もともと素質のある子だと思っていましたが、人を上手に使える非常に優秀な子だと感じました。チェックがスムーズに働くと、すぐに改善できるようになるためです。チェック機関を設けることで、よい行動が定着しやすいことを本能的に理解していたのだと思います」

目標クリアで自信に。最終偏差値は15以上アップ

A君は数字の書き方に課題があったものの、成績は比較的上位だったそうです。

「調子のよいときは、日能研の全国公開模試で偏差値65くらいでしたが、悪いときだと50代前半と、成績に波がありました」

成績が乱高下しやすいA君でしたが、『他人が判別できる数字を書く』という目標は無事に達成できたといいます。

邨田先生「目標を自分の弱点として向き合ったころ、成績面でも伸びていきました。最終的には偏差値が安定し、65から70の間に収まるほどの好成績です。最後は自信をもって送り出すことができ、見事に最難関校に合格されました」

目標達成と成績の向上にどのような関係があるのでしょうか。

邨田先生「他人には簡単に思える目標であっても、彼にとっては苦手であり弱点です。自分自身の課題として向き合い、振り返る機会をもつことで、人は精神的に成長します。A君も目標達成によって、自分に自信をもてるようになったのでしょう。その結果が、成績にも反映されたのだと思います」

振り返りの習慣を身につけて、6年後は晴れて京大に進学

A君が急成長を果たした理由として、邨田先生は保護者の方のサポートも素晴らしかったと語ります。

「親御さんはつかず離れず見守っていらした印象です。普通は『〇〇しなさい』と口出ししたくなるかと思いますが、そうした様子は見受けられませんでした。ひょっとすると、『先生に見てもらえるように言っておいで』というやりとりがあったのかもしれません。講師が褒めて促したほうが伸びるだろうと判断していただけてよかったです」

夏期講習が終わってから3ヶ月程度で偏差値が50代前半から70近くまで上がったという急成長について、邨田先生はどのように思われるのでしょうか。

「何よりもA君自身が一生懸命勉強したことが一番の理由だと思います。もしかしたら、字が汚いままでも伸びたかもしれません。しかし、目標をきっかけに自分の行動を振り返り反省できるようになったのは、彼を大きく変える成長だったと感じています」

A君は進学先の学校で6年間の青春を過ごし、念願の大学に進学されたそうです。

「卒業から6年後、A君が京都大学に合格したことを報告しに来てくれました。卒業から6年経ってもちゃんと思い出して挨拶をしにきてくれると、喜びもひとしおですね」

小学生にとってのひと夏は決して短い時間ではありません。毎日勉強と向き合いながら自分が決めた目標を達成することで、揺るぎない自信を得られるのでしょう。受験に立ち向かう心を養うためにも、今年の夏は目標を立ててみてはいかがでしょうか。

聞き手・文:古賀令奈