
中学受験でもっとも重要な選択といえる志望校選び。5年生の息子をもつ保護者のAさんから「塾の先生が無謀だと感じる学校を志望している場合、そのことをきちんと保護者に教えてくれるのでしょうか?」というご相談をいただきました。気になる答えについて、日能研のベテラン講師である荒賀先生と邨田先生にお聞きします。
9〜10月が最終ライン。情報は責任をもって正確に伝える
「うちの子は偏差値50前後ですが、60程度の学校を目指して頑張っています。無謀な挑戦であれば早めに見直したほうがいいと思っていますが、先生はちゃんと止めてくれるのでしょうか?」とお悩みのAさん。まずは算数の邨田先生が答えます。
「私の場合、情報は正確にお伝えします。無責任に『いけますよ』とは言わず、今の力からみて足りない場合はきちんと保護者の方にお伝えしています」
情報はきちんと伝えたうえで、ご家庭の意思に応じた対応を提示するそうです。
「あこがれの学校やご家族の母校など厳しくてもチャレンジしたい理由がある場合は、合格の可能性が高い併願校を提案しつつ、ご家族が納得のいく形でサポートします。Aさんのように合格の可能性が広がる学校を早い段階で目指したいというご家庭には、ご希望に合わせてプランを提示しています」
しかし、邨田先生によると、早めの判断が功を奏すとは言い切れないそうです。
「中学受験の終盤で驚くほど伸びるケース、いわゆるジャイアントキリングが起こる可能性があります。5年生や6年生の序盤の偏差値から10程度アップすることもあるので、早い段階で志望校の変更を提示する講師は少ないでしょう。ただし、他の受験生たちも本気を出す6年生の9〜10月あたりになると劇的な上昇は難しくなるため、今の実力に即したお話が増えてくると思います」
コニュニケーションを重視。第一志望はご家庭の意思を尊重
国語の荒賀先生は、保護者の方のお悩みに答える前に確認することがあるそうです。
「まず、リップサービスなしではっきりと言ってほしいかどうかを保護者の方に確認します。しっかり向き合ってお話しするためにも、日頃からご家族との信頼関係を大切にしています」次に荒賀先生が口にしたのは意外な言葉でした。
「そもそも、日能研は数字では判断しません。偏差値に応じて志望校をすすめるのではなく、『その子にとってどういう受験をさせてあげるのが一番いいのか』という物語を一緒に考えます。仮にチャレンジに失敗した場合でも、挑戦したことに意味があると思えるタイプのお子様ならぜひ受けてほしいですし、そうでないお子様の場合はおすすめしません」
ご家族が中学受験に何を求めているのかをきちんと聞き取り、コミュニケーションが成立した状態で判断してもらうことが大切だといいます。
「どのような物語にするのかは、家庭環境や考え方、性格によるため、単純に偏差値だけで測れるものではありません。お子様にとってベストな進路をご家族と一緒に考えていけるのが、日能研の強みです。こうした進路指導ができるのは、いつも子どものことをみているからだと自負しています」
成功のカギは“最後まで”受験をやり遂げること
中学受験は最後までやり遂げれば、基本的には結果を出せるといいます。
荒賀先生「受験プランは最初から最後まで受けることを想定して作られたものです。第一志望が厳しそうな場合は、日程なども考慮して合格しやすそうな学校を組み込むなど、綿密に考えています。そのため、独断で志望校を変えられるとプランが狂い、合格を1つも取れないケースにつながるのです」
いわゆる“全落ち”を防ぐには、事前に決めたプランを守ることが何より大切だと、荒賀先生は語ります。
荒賀先生「塾と相談したプランどおりに受けられたご家庭が全落ちするケースはほとんどありません。塾を信頼して最後までやり遂げてくだされば、全落ちはまず起こらないと考えてよいでしょう」
万が一の場合は公立に進学する方針であっても、必ず一校は合格しておくことが大切だそうです。
荒賀先生「合格が一つもないまま中学受験が終わると、お子様自身が成果を感じられなくなってしまいます。一つでも結果が残ることでどこまで到達できたのか実感できるだけでなく、『あえてそこを選ばなかった』という自分自身の選択として前に進みやすくなるでしょう。中学校で仕切り直してがんばる気持ちにもつながります」
受験は子どものためのもの。塾を信じて任せることが大事
受験期間にプランを崩すご家庭は、なぜそのような選択をするのでしょうか。
荒賀先生「塾を信頼していただけていないのでしょう。私たちが提案した併願校を『うちはこんな学校を受けさせるつもりはない』とスルーし、別の学校を受けて厳しい結果になるご家庭があります。残念ながら、合格可能性の高い学校を避けられた後では、私たちの手ではどうにもできません」
邨田先生によると、モデルケースどおりの受験する生徒はほとんどいないといいます。
「模範的な受験プランそのままで受験するお子様は、一人もいないくらいです。塾としてはお子様の個性に合わせて提案しますし、ご家庭のお考えもうかがって一人ひとりに合った受験プランを考えていきます。塾を信じていただき、納得のいく受験プランを作り上げ、最後まで一緒に走り抜いていただけるとうれしいです」
受験で重視すべきものは偏差値でなく、最後まで走り抜くこと。志望校にかける思いや悩みは塾に相談し、お子様本人とご家族が納得のいく受験プランで完走することが大切だといえるでしょう。
聞き手・文:古賀令奈